第1回テーマ:「血縁関係のない親子の問題」

講師:西田知佳子特定非営利活動法人環の会理事(精神保健福祉士社会福祉士)

場所:西南学院大学コミュニティーセンター

日時:2017年6月4日(日)

参加者:30名


午前の部-講演

●午前の部(西田さんの講演)―

日本における養子制度は家を守るものとして機能してきたが、1987年に民法が改正され、普通養子以外による特別養子縁組が可能になった。「環の会」の第1代目代表の横田和子は特別養子縁組制度の設置を訴えた菊田昇医師(1973年菊田医師赤ちゃん斡旋事件)の考えに共鳴し、福祉の勉強をしなおして国内における特別養子縁組の活動のために1991年に環の会を創設した。「環の会」は、産みの親のカウンセリング、育ての親のカウンセリング、研修会などをしながら、生まれる(た)子どもと養子先の夫婦のマッチングをすることを目的としているが、その際、「環の会」では、養子縁組の条件として、①子どもには、孤立し、辛い思いを抱えて妊娠した産み母によるDOHaD、Developmental Origins of Health and Diseaseといわれる胎児期の影響があるので、育ての親は、子どもが小学校入学までは仕事をやめて子育てに専念すること、②育ての親の年齢制限を厚生労働省のガイドラインに従い45才以下とし(かつては35才以下)、また、③子どもを選ばない、選べないという原則から、子どもの人種、障害などの情報は事前に知ることができない、④テリングtellingという真実告知を行い、産みの親と育ての親というママが二人いるということをはじめから明らかにする、ことを条件としている。マッチング後も産み母の支援、育ての親子の研修や交流会を行ってケアをする。マッチングなどの諸費用は育ての親の負担として、年によって異なるが、実費分で90万円くらいである。このような厳しい基準を敷いても里親になるという人々は、子どもの福祉の大切な社会資源であると考えている。次に、「環の会」通して特別養子制度を利用した方々の具体事例をあげて、その産み親の困難な状況、子どもがどのように産みの親をとらえるかなどについて話された。また、「環の会」が扱った220件の3分の1の産み母は中・高校生の若年出産であり、小学校高学年からはっきりした性教育をし、「望まぬ妊娠」を避ける必要がある。また、乳児院に子どもを預ける産み親は概して肉親との縁が薄く、自分の産んだ子どもを養子に出すことを非常に嫌がる傾向にあるが、現在のところ産みの親へのケアはまだ不足していると思う。最後に日本財団の特別養子縁組のアンケート調査によると特別養子縁組の子どもの方が一般養子より、自己肯定感が高いことが明らかになり、「環の会」としては嬉しいデータであった。



午後の部-討論会

―午後の部(討論会)―

 

「環の会」の、育ての親の条件として、「小学校入学前までは専業主婦でなければならない」ことについて、最近の非正規雇用化、企業間の競争激化の中で、現実と乖離しているのではないかという議論が出された。また、子どもの発達は、親子の間で育つものと同時になかまの中で育つものもあるので、親子の関わりだけを重視するというものではないという意見が出された。また、「環の会」を介して3人の子どもと特別養子縁組をした吉田夫妻が出席されており、吉田さんの子育て体験、個々の子どもの様子、きょうだい間の関係などの興味深い実態をご紹介いただいた。また、特別養子縁組の子どもは発達障害の子どもが多いことも現実であり、産み親の家庭環境の厳しさの連鎖、輪廻をどこかで断ち切るために、育ての親は徹底して子どもに自らを没入する必要があると思うという意見もあった。「環の会」では、親同士での交流会や学習会を行ったり、困難を出しあって、話し合って、助けてもらったり、子育てには、オープン化や連帯が大事であることなど、吉田さんのお友達、学生も参加して、活発な討論になった。担当:山崎理事